国が認めた「なんちゃって5G」とは?一気に5G通信網拡大となるか?

5G

2020年10月、総務省から「ソフトバンク株式会社に係る特定基地局の開設計画の変更認定」が発表されました。内容はソフトバンクから申し出のあった4G開発計画変更申請を認めたものです。変更内容は「4Gの周波数を5Gに転用できる様に変更」というもの。これにより一気に5Gが拡大になるのか?をまとめてみました。

そもそも今はスマホの5Gは使えるの?

現時点でもドコモ、au、ソフトバンク、楽天の4社は5Gサービルを販売しており、5G対応スマホと5Gサービスに加入していると使えます。

ただ、使えるエリアは限られているし、本来の5Gのスピードは出ていないのが現状です。

上図はソフトバンクで提供されている5Gエリアです(ソフトバンク公式より、執筆時点)。東京の一部ですが、ピンクが現状の5Gエリア、黄色が2020年冬以降に拡大予定の5Gエリアです。現時点では誰もがいつでも使えるという状態ではありません。

そもそも5Gって何?特徴は?

5Gの特徴としては3つあります。

  • 超高速
  • 多数同時接続
  • 低遅延     の3つです。

現状スマホにおける5Gに提供されているのは、3つの中の1つ「超高速」の部分だけです。それでも5G本来(フル5G)の超高速よりも遅いものです。

5Gなのに何で超高速じゃないの?

フル5Gを実現するには、現在ある基地局の電波網ではなく、新たに基地局を増やし電波網を1から作る必要があり、実現までは費用も時間も掛かります。このフル5G設備を整えた通信方式はスタンドアローン(SA)方式と言います。

一方、現在の4G電波網を活用し5G導入を行う方式がノン・スタンドアローン(NSA)方式です。すでにある電波網を活用することで導入が速く、比較的簡単に5Gサービスを始めることが出来ます。現在日本で提供されている5GはNSA方式です。

しかしNSA方式で提供できるのは超高速の部分だけ。それもSAに比べると通信速度は遅いものです。

NSA方式5Gは4Gを利用しているのに早いの?

現在日本で提供されているNSA方式の5Gは、4G電波網に重ねて5G基地局(エリア)を作り、スマホと5G基地局の間をNew Radio(NR)という通信を行います。NRで取り扱える電波の周波数を大幅に拡大することで高速化をしています。

4Gの取り扱う周波数帯が20MHzのところ、NRとの通信で5Gエリアでは100MHz(4Gの5倍程)まで拡張しています。扱える周波数を拡張した分、通信速度は4Gよりも、NSAの5Gは5倍程の速度があります。

SAのフル5G導入はいつから?

SA方式のフル5Gは現状の4Gの20倍の速度と言われています。フル5Gは周波数の高いミリ波(28GHz帯)とSub6(6GHz帯)を組み合わせで行いますが5Gの超高速通信はミリ波によるものです。

参考:日本ではSub6に当たる周波数は3.7GHz帯、4.5GHz帯が5G用として各キャリアに振り分けられています。

Sub6に関してはこれまで扱ってきた4Gと近い周波数であるので、取り扱いに問題がないのですが、ミリ波に関しては取り扱いが困難な周波数です。

ミリ波は周波数が高く、直進性があり、高速です。ただし遮蔽物に非常に弱く、雨や水蒸気にも影響を受けます。現状では室内や施設などの極めて狭い場所での運用になりそうです。

現時点でSA方式のフル5Gを商用利用で導入しているのはアメリカのT-mobile、中国のチャイナ・テレコムなどです。

アメリカと中国を除く世界各国では、日本と同じNSA方式の5Gを現状採用しています。

日本でのSA方式のフル5Gはドコモ、au、ソフトバンクが2021年度中に導入の予定です。本格的に使える様になるのは2022年くらいになりそうです。

4G周波数の5G転用って何?

長くなりましたが、ここで表題の4Gの5G転用についてです。

日本の総務省では各通信会社(≒キャリア)に使って良い通信の周波数帯を割り振っています。割り振った周波数に関しては利用使途が限られていました。

4G用に割り振ったものは、4Gにしか使えなかったのです。ソフトバンクは、総務省に提出した4G開発計画の変更申請をして4Gを5Gに転用できるようになりました。

総務省資料抜粋は以下です。要約すると青字の部分です。

4G等で使用されている周波数帯に5Gを導入するため、ソフトバンク株式会社から、電波法(昭和25年法律第131号。以下「法」と言います。)第27条の14第1項の規定に基づき、現在認定期間中の3.9世代移動通信システム等の普及のための特定基地局の開設計画(以下「3.9G等普及の開設計画」と言います。)及び第4世代移動通信システム等の普及のための特定基地局の開設計画(以下「4G等普及の開設計画」と言います。)の変更申請がありました。
 総務省は、同条第2項において準用する法第27条の13第4項の規定に基づき、同申請について審査した結果、いずれも開設計画の変更を行うことが適当であると認められることから、本日、認定をしました。

総務省HPより:https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000474.html

これにより、日本の非常に広域を占める4Gエリアが5Gエリアへと一気に拡大する可能が出てきました。

しかし、4Gを転用した5Gエリアの通信速度は4Gと同じ程度の速さです。本来の5Gより遅いため、4G転用の5Gは「なんちゃって5G」と言われています。

4Gを5Gへ転換する技術「DSS」

ソフトバンクがどのように4Gを5Gへと転用するかは公表されていませんが、4Gエリアを5Gエリアへと変える技術があります。それが「Dynamic Spectrum Sharing=DSS」です。日本語に訳すと「動的周波数共有」になります。

DSSは4Gの通信データの中に5Gの通信データを加えることで、エリアは4Gながら5Gデータが認識できるという技術。

DSSを推奨しているクアルコムでは、DSSに加え周波数帯の違う複数の4G電波と5G電波を束ねて高速化するキャリアアグリゲーションを組み合わせることで4Gエリア内の5Gカバーエリアの拡大と周波数帯域の効率利用が出来ると説明しています。5G対応スマホ内で判断し、4⇔5G切り替えも効率的になります。

クアルコムがDSSを推奨しているのは、自社で作っている最新のSnapDragonにはDSSが対応していることもあります。Snapdragon765/765G/865以降の5G対応のものはDSS対応になっています。

なんちゃって5Gをけん制するドコモ

ドコモはなんちゃって5Gの導入自体には賛成していますが、早期導入に関しては懐疑的です。その理由をドコモ側は3点上げています。

  • 速度が4Gと同等なこと
  • ユーザーに「なんちゃって5G」と「通常5G」のエリアマップ周知が必要
  • DSS導入で4G電波の速度が落ちる懸念

総務省が発表したソフトバンク開発計画変更の条件にも、ユーザーの誤認を避ける様に周知することが書かれています。

第5世代移動通信システムに周波数を活用する場合には、通信速度等の性能について、利用者が誤認しないように、エリアマップ等の丁寧かつ分かりやすい方法で適切に周知すること。

総務省公式:https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000474.html

確かにスマホに5Gと表示されているのに、4Gと同じ速度ならばユーザーの不満も起こるでしょう。

しかし、ドコモが「なんちゃって5G」をけん制するのは、他の理由がありそうです。ドコモが4G基地局を整備したのは他社(au、ソフトバンクなど)よりも古く、ドコモの4G基地局はDSS導入が技術的に難しいという話もあります。

ミリ波の高速5Gを体験したい!

現状ミリ波自体は日本でも使えるスポットをドコモでは公表しています。参考までにドコモのミリ波が使えるスポットは以下になります。ミリ波を使うにはミリ波対応のスマホが必要です。ミリ波対応のドコモ販売のスマホは、arrows 5G F-51A、Galaxy S20+ 5G SC-52Aの2機種です。

まとめ

ソフトバンクの開発計画の変更に伴い、今後は5G向けの展開が大きく行われそうです。iPhone12が5Gに対応したことの影響も大きいでしょう。

しかしながら、現状はノンスタンドアローン方式の超高速とまでは言えない5Gです。さらに4Gと速度の変わらない「なんちゃって5G」が誕生しそうです。

スタンドアローン方式のフル5Gに関してはまだ先の話。フル5Gの機能が楽しめるには、後1~2年は掛かりそうです。

そもそも5G自体はスマホに限った技術ではなく、車の自動運転、農業分野での導入(ローカル5G)、遠隔医療に期待されているものです。むしろスマホへの5G対応は最優先事項ではありません。

実際スマホ分野で5Gを使った革新的なサービスも出来ていない状態です。これから増えてくる5Gスマホですが、どんなサービス、機能を見せてくれるのか楽しみにしたいです。