2020年10月の報道でファーウェイが運営するサブブランドHonorの売却を検討中との報道記事がありました。Honorは日本でも販売されていて、知っている人も多いブランド。今、何故ファーウェイはHonorを売却するのか、その背景を調べてみました。
ファーウェイ規制の理由は?
ファーウェイはアメリカを中心に世界各国から取引の規制をされています。この規制がスマホの生産にも大きく影響しているのですが、そもそもファーウェイはなぜ規制の対象になっているのでしょう。
ファーウェイは通信機器の会社
ファーウェイはスマホのイメージが強いですが、通信機器の会社です。世界的に基地局、アンテナなどの通信機器設備を販売しているトップシェアの企業です。さらに世界規模で行われている5Gインフラの開発に向けファーウェイは5G関連の特許を多数持っていて、特許の保持件数は5G特許全体の15%を占め、世界で一番5G特許を持っている企業です。
ファーウェイの何がいけないのか?
ファーウェイ本社のある中国では「インターネット安全法」が施行されています。基本的にはインターネットのセキュリティについての規定と国家の安全保障についての法律ですが、ポイントは中国政府による監督検査に協力することが義務付けられていることです。
中国企業であるファーウェイの通信機器を利用することで機器を通じたデータを中国政府で管理できる可能性があることが安全保障上の懸念であるとアメリカが抗議し、制裁を行っています。
とは言え、それは通信機器を販売する会社であれば、通信の内容を知ることは、ファーウェイに限らず、やろうと思えばできること。通信インフラのグローバル企業のEricsson(エリクソン)やSamsung(サムスン)、Nokia(ノキア)でも同じことではあります。もちろんドコモでも同じです。
ファーウェイが特殊なのは、中国政府の資本が入っていること。また、ファーウェイの創始者であるRen Zhengfei氏が元軍人(といっても技術者)であったことも懸念の理由になっているかも知れません。
XiaomiやOPPOに規制はないの?
近年グローバルでシェアを伸ばしている中国スマホ企業のXiaomiやOPPOは個人資本のみの会社です。基地局などの技術に長けている企業でもないため、アメリカの規制の対象にはならないとみられています。
とは言え、中国企業のIT企業バイトダンスが運営するTikToKにもアメリカの制裁がありました。アメリカ国内でのTikTokのダウンロード、更新が禁止になりかけました。結果的には、アメリカ企業のオラクルと提携し、「TikTokグローバル社」を設立し、アメリカユーザーのデータはオラクルのクラウドサーバにて管理することになり、サービスは継続になりました。
こう考えるとXiaomiやOPPOにも何か起きても、不思議ではない状態ではあります。
Xiaomiは2020年に利用者データを中国EC最大手アリババグループが運営するサーバに送っていることを認めたことがありました。Xiaomi側は個人とデータが結びつかないよう匿名化されているため、セキュリティ上問題が無い事をコメントしています。
同じようなケースは日本でもありました。ビックデータが話題になった頃、電車などの移動状況をデータ化しているドコモの取り組みがプライバシーの侵害だと言われたことがありました。この時も個人とデータが結びついていないことを公表していました。
スマホ利用に関するデータ収集は、スマホメーカーなら普通に行っていて、商品開発などに活かしているようです。
ファーウェイが受けている制裁とは?
最近の規制内容を時系列に見てみましょう。
2019年5月
- 米商務省産業安全局(BIS)はファーウェイとその関連企業68社をエンティティリストに追加し、事実上、ファーウェイは米国製品(物品、ソフトウエア、技術)の調達が不可に。2019年8月までは猶予期間が設定(最終的には2020年8月まで猶予期間は4度延長となる)。
→GoogleがHUAWEとの取引停止を発表。今後新たに作られるスマホに関してはGoogle Mobile Service(GMS)が非搭載に。
2019年8月
- BISはあらたにファーウェイ関連企業46社をエンティティリストに追加。追加企業も米国製品(物品、ソフトウエア、技術)の調達不可。
2019年11月
- 米連邦通信委員会は米通信ネットワークにとって安全保障上の脅威となる企業からの調達を一部停止規制。米通信企業はファーウェイとの新規契約が禁止。
2020年5月
BISは輸出禁止措置の猶予期間を8月で終了することを公表。禁止措置の対象に米国製の技術・ソフトウエアを用いて米国外で製造された一部製品が追加
2020年7月
- 米政府機関がファーウェイ製品を利用している企業との契約を禁止
→ファーウェイのスマホに搭載されるSoC「Kirin」を製造する台湾企業TSMCが「アメリカ政府の関連規制に順守」を発表。2020年9月でTSMCとの取引停止。
現状高性能なKirinの製造が困難な状態になってしまいました。
ファーウェイは今後SoCをどこから仕入れる?
ファーウェイは猶予期間にTSMCから900万個ほどの高性能Kirinを調達したものと見られていますが、それでも在庫限り。スマホの世界シェア2位の企業としては、1年持たないSoC在庫と見られています。
今後の調達についてはTSMCと同じ台湾の企業である半導体メーカーのMedia Tek(メディアテック)から仕入れる見込みです。メディアテック製SoCと言えば安価なスマホに搭載のHelioシリーズが有名ですが、最近製造している5G対応のDimensityシリーズはクアルコムのSnapdragon800番台に並ぶ性能を持っています。
しかしながら、メディアテックは半導体のファブレス企業。メディアテックもSoCの製造はTSMCに依頼している状態なので、メディアテックからの仕入れも安心ではありません。
・製造を行うファウンドリ企業
・工場を持たず設計を行うファブレス企業
Snapdragonのクアルコム、Kirinのハイシリコン(ファーウェイの子会社)、HelioとDimensityのメディアテックなどは設計を行うファブレス企業です。これらのSoCは世界最大手のファウンドリ企業であるTSMCが製造をしています。
Honorの売却はホント?
ファーウェイのサブブランドであるHonorは低価格ラインのスマホを販売しています。サブブランドとは言え、ハイエンドモデル並みの性能を持つスマホやスマートウォッチ、タブレット、ノートパソコンなども販売しており、ファーウェイの売り上げの26%程を占めるブランドです。
Honorスマホも、これまでは基本Kirinを搭載していましたが、最近発表されたHonor9AやHonor9SはMediaTekのHelioシリーズが搭載されています。
Honorを売却することのメリットは以下のことが挙げられます。
- SoC不足の中、高価格帯のスマホ生産に注力できること
- 米国の制裁を回避してHonorブランドは残すことができること
Honor売却の価格は37億ドル(約3900億円)程になると言われており、中国IT大手のデジタルチャイナやスマホ世界シェア4位のXiaomi、テレビ最大手TCL(スマホも作っている)などが、買収を検討しているとのことですが、パブリックコメントは、現時点で出ていません。
まとめ
ファーウェイを取り巻く環境を含め、Honor売却の可能性をまとめてみました。
実際は正式な回答をしている企業が無いため、売却がホントかどうかは憶測でしかない状態です。
ファーウェイを取り巻く環境を考えると「売却もあり得るな…」と思えます。また、買収を検討している企業が皆中国企業であることも、現実的な気がします。制裁から離れたHonorブランドが中国に残り、世界中で販売されるなら中国的にも悪くない話です。
今起きているファーウェイの制裁はスマホだけではなく、5Gのインフラを中国に任せたくないという世界各国の思惑(アメリカの圧力も含め)もあります。ここ数か月でも以下のような発表がありました。
- イギリスは2027年までに5G通信網からファーウェイの排除を発表(2020年7月)
- インドで5Gインフラ導入計画からファーウェイを排除(2020年8月)
- ベルギー通信大手2社は5G構築にあたり、これまで使っていた2~3Gの設備も含めファーウェイからノキア(フィンランドの通信大手)へ変更(2020年10月)
- スウェーデンで5G通信網にファーウェイ製品の使用を禁止(2020年10月)
スマホだけじゃない通信機器の最大手ファーウェイですが、今回の規制で痛手を負ったことは確かです。世界各国でスマホシェアを落としています。しかし、この規制のせいでアメリカに依存しないでもモノづくりができる技術力を開発する可能性もあります。Google Mobile Serviceに頼らないHuawei Mobile Serviceを開発し、中国政府としても設計だけでない半導体製造に投資して開発に力を入れています。
政治的な背景はさておき、スマホファンとしてみると、やっぱりファーウェイのスマホは魅力的です。何も考えずファーウェイのスマホが使えたら良いなとは思います。今後のファーウェイにも注目していきたいです。
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